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朝鮮民話「金の壷を掘り出した若者」
 むかしむかし、あるところに一人の若者が暮らしていました。
 若者は家が貧しかったので、20歳が過ぎても嫁をもらうことができませんでした。
 かれはまだ未婚なので、編み髪を垂らしている自分の姿が恥ずかしかったし、まげを結った若者たちがうらやましくてなりません。早くすてきな嫁をもらいたかったのです。
 (どうすれば嫁をもらうお金ができるだろうか)
 かれは思いにふけりながら、山へ柴刈りに出かけました。しかし、一日かかってとった薪を売っても、金はいくらにもなりません。
 若者はある日、薪を売って帰りながら財布をあけて、それまでためた金を数えてみました。ところが、いくら数えてみても、結納にあてるチマの生地さえ買えそうにありませんでした。
 がっかりして草むらに横たわった若者は、金鉱へ行ってボタでも拾ってみようかとも思い、行商をしてみようかとも思いました。
 若者はそのうち眠りにおちてしまいました。夢に髪の白い老人が現れて若者に言いました。
 「おまえはお嫁さんをもらうお金がなくて困っているようだが、わたしがいいことを教えてあげよう。あの深い谷間をすこし登っていくと、土のもりあがったところがある。そこを掘れば金の壷があるだろう。そのなかから黄金のかたまり三つだけを取り出し、残りは壷に入れたまま、もとどおり埋めておきなさい」と言ったかと思うと、老人はどこへともなく姿を消してしまいました。
 夢からさめた若者は、さっそく老人の教えてくれた谷間へ向かいました。サラサラと流れる谷川にそって谷間を登っていくと、たしかにこんもりと土のもりあがったところがあります。
 かれは鍬でそこを掘りはじめました。しばらく掘っていると、鍬になにか固いものがつきあたりました。そこからは、まばゆい光を放つ金の壷が出てきました。
 若者は急いでふたをあけ、壷の中をのぞいてみました。たしかに、そこには黄金のかたまりがぎつしりとつまっています。
 若者はそのなかから三つだけを取り出しました。だが、どうもそれだけではもの足りないような気がして、その場を去ることができません。
 若者はもう一度、壷の中をのぞきこみました。そこには黄金のかたまりがまだいっぱいあります。一瞬、若者の心は変わりました。
 黄金のかたまり三つだけでも、結婚の費用にあてて余るほどのお金になるのですが、もう一つ欲しくなったのです。悪い欲を出したかれは、黄金のかたまりをもう一つ取り出しました。そして四つの黄金のかたまりを手にしてみると、今度は五つ欲しくなりました。
 (えい、どうせ手をつけたからには、一つか二つもっと取り出してやろう)
 若者の心に、こんな考えが浮かびました。あたりを見まわすと、だれも見ている人はいません。欲はさらにつのり、かれはもう一つの黄金のかたまりを取り出しました。
 するとそのとき、にわかに稲妻がはしり、天地もさけんばかりの雷鳴がとどろきました。若者はびっくりして、その場にへたばりこんでしまいました。大雨が降りだし、嵐が吹きすさびました。谷川に濁流があふれました。
 若者は命からがら、山の背にはいあがり、かろうじて助かりましたが、すっかりあわてふためいていたので、手にしていた黄金のかたまりを無くしてしまいました。
 がっかりした若者は、雨がやんだあと、その谷間へ引きかえしてみました。ところが土のもりあがったところは見あたらず、金の壷を掘り出した場所がどこだか、まるっきりわからなくなってしまいました。かれはがっかりして、その場にへなへなと座りこみ、ため息をつきました。
 (ああ、欲張ったため、手に入れた宝物まで無くしてしまっちゃった)
 だが、もうあとの祭りでした。
 家へ帰った若者は、しょい子を無くさなかったことだけでも幸いだと思い、その後は降ってわいたような幸運など望まず、一生懸命働いて自分の力で新しい家庭をきずいたそうです。