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短編小説「百日の写真」(13)
 チュチェ113(2024)年 出版

 このとき、廊下の方から赤ちゃんの鳴き声が聞こえた。
 「ここに赤ちゃんがいますね」
 金正恩総書記は明るく笑いながら言った。ソンオクははっと我に返った。そのときになって始めて、眠っている息子を管理係の娘たちに預けておいたことを思い出した。
 「どなたの赤ちゃんですか」
 「あの・・・」
 「あ、解説係の赤ちゃんのようですね」
 身の置き所がないソンオクに代わって、ミョンスン館長が答えた。
 「実は、今日がソンオクさんの息子の百日です。それで、写真を撮るため郡所在地の街の写真館に行くところでした」
 「あ、百日だったんですか。めでたい日に私が来たわけですね。ところが、母親の急用が私のために遅れてどうしますか。ソンオクさん、早く行って赤ちゃんの面倒を見てあげなさい」
 ソンオクは解説を中断して行くことができず、躊躇った。そんな彼女を促すかのように、赤ちゃんはもっと激しく泣いた。
 金正恩総書記は優しく言った。
 「さ、聞こえるでしょう。子が母親を呼ぶことより急用はありません。早く行ってみなさい」
 ソンオクは我を忘れて部屋を出て、無意識のうちに管理係の部屋に駆けつけた。
 部屋には誰もいなかった。管理係の娘たちがあわてた余り、赤ちゃんを抱いて外に出たようだった。
 二人の管理係の娘たちが事績館の前庭で泣きじゃくる子をなだめようとあくせくしていた。
 「チュンソン、お母さんが来たよ」
 ソンオクの声に赤ちゃんは涙をいっぱいたたえた目をパッチリ開けて彼女を見上げると、驚いたことにぴたっと泣き止んだ。
 「この子ったら、なんでこんなに早く起きたの」
 子を受け取るソンオクの頬を伝って涙がだくだくと流れ落ちた。
 「金正恩総書記に解説をしてあげましたか」
 羨ましさ一杯のまなざしでソンオクを見つめながら、管理係の娘たちは寄り添って聞いた。
 「この子が泣いたので、止む無く・・・」
 「あら、どうしよう、私のせいですわ、だって、赤ちゃんをどうあやしていいか分からないんですもの」
 チュンソンはソンオクに抱かれると不思議なことにそっと目を閉じ、いつ泣いたものかと言わんばかりに再び寝ついた。解説の途中に出たというすまない気持ちと心残り、チュンソンがまた泣き出したらどうしようという心配で落ち着かずにいたソンオクは急に上がる歓呼の声に顔を上げた。