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短編小説「百日の写真」(12)
 チュチェ113(2024)年 出版

 「その学芸員がほかならぬチェ・ソンオクさんの父です」
 ミョンスン館長がソンオクを前に立たせながら言った。
 「そうですか」
 ソンオクを眺める総書記の顔に優しい微笑みが浮かんだ。
 「お父さんはお元気ですか」
 ソンオクは何か言おうとしたが、声が出なかった。一瞬、のどが詰まってしまったのだ。
 「ソンオクさんのお父さんは数年前、亡くなられました」
 館長が代わりに答えた。
 「それはお気の毒ですね。けれども、お父さんの代をついで、わが党の思想部門の前哨を守っているソンオクさんを見ると本当にうれしいです。この父ありてこの子あり、ですね」
 重ね重ね言う総書記の褒め言葉にソンオクの目は潤んだ。
 「敬愛する金正恩総書記!ありがとうございます」
 次の部屋に移ろうとした総書記はオクポ里の小道の写真の前で歩みを止めた。
 「オクポ里の小道?」
 総書記は静かな声で写真の解説文を読んだ。
 「ほんとうに貴重な写真です。金日成主席はこんなに険しいチャンソン郡の山道を数え切れないほど歩いて、代々貧しかったここを幸せの楽土に変貌させました」
 小道の写真の傍に並んでいる今のオクポ里の全景の写真を指して、総書記は話を続けた。
 「今のオクポ里は見違えるほど移り変わりました。このように並べて展示したので、オクポ里の小道の写真が与える余韻が本当に大きいです」
 ソンオクは父が生きていて、今、この場にいたとすれば、どんなによかったことだろうと切々と思った。
 「主席は、国の全ての山々を黄金の山、宝の山に変える雄志を抱いて、ほぼ毎年、ここを訪れました。当時、主席は戦後の復興建設を指導するため、一日たりとも安らかに休んだことがありませんでした。党中央委員会政治委員会で、主席が休むことを決定したほどでしたからね。
 しかし、主席は景色のいい名山や名所でなく、貧しいところで有名なここ、チャンソン郡に来て、これほど険しい山道を歩き続けました。まさに、チャンソン郡は主席が一生を通して築いた黄金の山の故郷、社会主義の桃源郷です」
 あの時の主席のことが刻まれた碑文のようにくっきりと心に刻み込まれる言葉であった。